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Vol.10

加齢にともない筋肉や骨が弱くなったり、関節や軟骨が擦り減って痛みがでたりして、体を動かす機能が低下した状態をロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)といいます。
進行すると日常生活に支障が生じ、悪化すると要介護や寝たきりの状態になる可能性があります。
今日の超高齢化社会にとって予防対策は非常に重要となっていきます。


ロコモティブシンドロームとは

 ロコモティブシンドロームとは、別名「運動器症候群」と呼ばれ、特定の病気を指すものではありません。なんらかの原因で筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり移動機能が低下している状態を指します。よって「病気」ではなく「状態」であることを意味します。
 ただし、変形性関節症や関節リウマチ、脊柱管狭窄症といった病気とその症状が原因で、結果としてロコモティブシンドロームになってしまう場合もあります。すなわち、ロコモティブシンドロームは「要介護や寝たきりになるリスクが高まった状態」ということを覚えておきましょう。

ロコモティブシンドロームの概念

ロコモティブシンドロームの歴史はまだ浅く、2007年に日本整形外科学会が超高齢社会の今後を見据えて提唱した概念です。
 ロコモティブシンドロームが提唱されるようになったのには、以下のような背景が関係しています。
・日本の高齢化がこれからますます進行していくため。(超高齢化社会)
・高齢者人口の増加にともない、要介護者も激増すると予想されるため。
・運動器の障害を防止できれば、要介護状態に陥るのを予防できるため。

 ロコモティブシンドロームはメタボリックシンドロームや認知症と同じく、健康寿命が短くなったり、寝たきりになったりする主な要因の一つです。誰しもいつかは介護する側、される側となります。双方の負担を軽減し、よりよい老後を送るためにも、きちんと知る必要があります。

ロコモティブシンドロームの原因

主に下図の運動器の衰え、障害・症状が原因となります。

1.骨の病気(骨粗しょう症)

閉経後の女性がホルモンバランスを崩すことによって起こりやすくなる病気です。通常の人よりも骨がもろくなっているため、ちょっと転んだだけで骨折する高齢者が多いようです。骨折した場合は治癒にも時間がかかるようになります。安静にしなければならない期間が長引くことで、そのまま寝たきりとなるケースも珍しくはありません。
 骨粗しょう症には症状の進行を食い止めるいくつかの治療薬が開発されているため、医師の判断のもと治療を進めましょう。

2.関節・軟骨の病気(変形性関節症)

ひざなど軟骨が加齢や体の歪みによってすり減り、関節に痛みを生じる病気です。立ったり歩いたりといった動作をすると痛みが生じるため、動くことに対して消極的になり、過度な安静を取ってしまいます。しかし、安静によってますます筋力が低下し、体の状態は悪くなっていきます。その結果、移動が困難となりロコモティブシンドロームを引き起こしてしまいます。
 痛みは我慢し続けると、うつ病などの精神の病気にもつながる場合もあるため、医師の指示のもと薬物療法や運動療法を実施して軽減に努めましょう。

3.筋肉の衰え(サルコペニア)

下半身やその他の筋力の低下により、移動機能が低下し、結果としてロコモティブシンドロームにつながることがあります。個人差はありますが、40歳前後から徐々に筋力の減少、筋肉量の減少が見られ、その傾向は加齢に伴って加速化していきます。とくに高齢者においてはその速度はますます高まり、1年で5%以上の減少率となる例もあります。この現象をサルコペニアと呼びます。

サルコペニアについて

1.サルコペニアの要因

サルコペニアはギリシア語で骨格筋の減少を意味し、サルコ(筋肉)とペニア(減少)の造語です。加齢と共に、四肢骨格筋の筋肉量が落ち、それに加え筋力自体が低下することが本来のサルコペニアの定義です。
加齢に伴いホルモン分泌が変化したり、神経と筋肉の接合部が変性したりすることでサルコペニアが起こると考えられます。また、過度の安静によって生じる廃用性の筋骨格の萎縮や、栄養や活動量の低下なども要因となります。

2.サルコペニア判定法

(東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢准教授提供資料より引用)

現時点では、腕や脚の筋肉量、握力、歩行速度を測って判定する必要があり、予備軍の段階での発見は難しいようです。しかし簡易的に判定できる方法があります。
 「指輪っかテスト」という自己評価法です。

方法は、両手の親指と人さし指で輪っかをつくり、ふくらはぎの最も太い部分を囲むだけ。「囲めない」「ちょうど囲める」「隙間ができる」の順にサルコペニアの可能性が高まるほか、筋肉量や身体能力、食事量、口の中の機能、生活の質、うつ傾向、転倒歴との関係も認められているようです。

ロコモティブシンドロームの診断方法

 次の7つの項目で、1つでも当てはまるものがあればロコモティブシンドロームの疑いがあります。普段の生活を思い出しながらチェックしてみましょう。

(「一般財団法人 大阪府社会保険協会」パンフレットより引用)

ロコモティブシンドロームを予防するには

1.「骨」を強くする

人間の体を支える「骨」。その骨量は20代をピークとして、40代から徐々に減少していきます。先ほど述べた骨粗しょう症のリスクが高くなります。まずは食事で骨を強くするように心がけましょう。

(日本人の食事摂取基準2015年度版より抜粋)

上記の栄養素は骨の形成・維持に役立ちます。
また、適度な運動も大切です。骨は適度な負荷をかけることで強くなります。運動習慣のない人はウォーキングやラジオ体操等、簡単にできることから始めてみましょう。

2.「関節」を守る

2つ以上の骨が向き合い、靭帯と関節包によってつながれた部分が「関節」です。関節には神経がないため、擦り減ったり、変形が始まっても無症状であることが多いです。しかし、擦り減り・変形が進行すれば、靭帯や周囲の筋肉に負担をかけるようになり、破損した軟骨が炎症して痛みが出るようになります。
 関節の擦り減り・変形は40代から始まります。守るためには、その周囲の筋力のアップと柔軟性を向上させることが大切です。
 運動習慣のある人は、その運動を年齢・体力に合ったペースで継続しましょう。習慣のない人は、ストレッチ等の柔軟体操や水中歩行、ウォーキング、サイクリング等、できることから少しづづ始めてみましょう。

3.「筋肉」を強くする

骨格を支えつつ、私たちの体を動かしているのが「筋肉」です。骨同様、20代をピークとして、30代から筋肉は低下を始めます。特に、運動習慣のない人ほど衰えやすいようです。しかし、「筋肉」は何歳からでも取り戻すことができます。

(日本人の食事摂取基準2015年度版より抜粋)

上記の栄養素を摂取し、同時に筋力をつけましょう。軽めのダンベル、ウォーキング、サイクリング、体力のある方は水泳やジムでのトレーニング等、関節に負担をかけないようにして筋力アップを目指しましょう。
  ただし、筋力がついてきたと実感できるようになるのは、約2~3週間かかることが多いため、すぐにあきらめずに継続することが大切です。また、関節や筋肉に痛みが出たら無理をせずに、自分のペースで運動しましょう。

フレイルについて

1.フレイルの範囲

次にロコモ、サルコペニアを話す上で重要なフレイルについて説明します。フレイルとは、虚弱のことでサルコペニアと強い関連性があります。

年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態のことで、身体的・精神的・社会的な側面を包含する広範な概念とされています。
 上図が示しますように、ロコモは、この身体的フレイルにおいて運動器の障害による機能の低下をあらわす病態として重要な位置を占め、サルコペニアは、その基礎疾患と位置づけられています。

2.フレイル診断方法

ロコモティブシンドロームと重なる項目はありますが、日本にはまだ診断基準が無いため、アメリカで使われている方法でチェックしてみましょう。

この中で3項目チェックがあったら、フレイルの疑いがあります。1~2項目ならフレイルの前段階です。

今回は運動器の衰えであるロコモティブシンドロームについてと、その中の筋肉の衰えであるサルコペニア、そしてロコモティブシンドロームを含んだ虚弱を表し、より広義な範囲を示すフレイルについて紹介しました。
超高齢化社会を抱える日本にとって大きな課題となる内容だと思います。皆様も衰えを感じたときは予防を行い、健康的な生活を送れるようにしていきましょう。