Vol.11
骨や歯を丈夫にする「カルシウム」は、日本人に最も不足しがちな栄養素であると言われています。
厚生労働省が推奨する成人の一日あたりのカルシウム摂取量は600mg~800mgとなっていますが、国民健康・栄養調査(平成26年度版)による平均摂取量は497mgと推奨する量を下回っています。
カルシウムとは
カルシウムは、古代から石灰(炭酸カルシウム)として利用されてきたミネラルです。人間の体内に一番多く存在しているミネラルで、体重の1~2%を占めています。また人間の体内にあるカルシウムは2つに分類されます。
まず歯と骨に存在し貯蔵されているカルシウムです。これはカルシウム全体の99%を占めており、生命維持のために必要なカルシウムを貯蔵しておく倉庫の役割を果たしています。
残りの1%は人間の血液や細胞外液、神経、筋肉の中に存在しています。微量ですがとても大切な役割を果たしています。心臓や脳の働きを調整する、生命の維持になくてはならない栄養素です。
カルシウムのはたらき
先述しましたが、カルシウムは骨や歯の材料になるだけではありません。カルシウムはすべての生命活動の中心的役割を果たしているミネラルです。 まとめますと次のような作用があります。
・骨や歯の材料となる。
・酵素、ホルモンを生成する。
・細胞分裂や細胞の構成成分となる。
・イライラやストレスなどを静め、神経を安定させる。
・筋肉(平滑筋を含む)の収縮に不可欠。
・体内のイオンバランスを正常値に維持する。
・体内の浸透圧を一定に保つ。
・血液凝固促進作用。
・心筋の機能を正常に保つ。
・抗アレルギー作用。
以上のようなたくさんのはたらきがあります。
カルシウムの吸収・代謝
食品から摂取したカルシウムは胃酸で溶解されCaイオンとなります。その後小腸上部では活性型ビタミンDの作用により吸収され、小腸下部では濃度の差による受動輸送で吸収されます。吸収されたカルシウムは血液によって体の隅々まで運ばれ、主に骨や歯を形成(骨形成)します。
血液中のカルシウムは、常時同じ濃度に維持されています。カルシウム摂取量が少なくなると、骨からのカルシウム溶出が増加(骨吸収)し、骨に蓄積されていたカルシウム量が減少します。
このように骨吸収と骨形成がバランスよく起こることで血中のカルシウム濃度は維持されます。
カルシウムの調整に関わるホルモン
PTHは先に説明しました、骨吸収に関わっていて、骨の再吸収を促進することで血中のカルシウムイオン濃度が高まります。また腎臓でカルシウムがろ過されたのちの再吸収を促すはたらきもあります。
カルシトニンはPTHと逆の作用を起こすホルモンで、骨形成を促進します。一部のカルシウムを腎臓から尿中に排泄させるはたらきもあります。
カルシウムを多く含む食品
カルシウムを多く含む食品は以上のようなものがありますが、食品により吸収率が違います。乳製品に含まれているカゼインホスホペプチド(CPP)はカルシウムの吸収を促進する作用があります。逆に野菜類に含まれているフィチン酸やシュウ酸、食物繊維はカルシウムの吸収を阻害します。このように含まれているものによってカルシウムの吸収率が変わってきますので注意が必要です。
カルシウム不足の概要
上表は日本人の食事摂取基準2015年度版のカルシウムの食事摂取基準値です。この表をふまえて実際のカルシウム摂取量と比較したのが下図となります。
上表の推定平均必要量と国民健康栄養調査(平成28年度)の中央値をもとに作成しています。男女ともに、摂取量は下回っており、ほとんどの年齢層で不足していることがわかります。
カルシウム不足で起こる病気
先ほども説明しましたが、人の体は血液中のカルシウムが一定レベルにある必要があります。もし、食事から摂るカルシウムが不足しても、不足分を骨からカルシウムが補給され、血液中のカルシウムを一定に保つ仕組みにより、すぐに体調が崩れることはありません。しかし、カルシウムの摂取不足が続くと「骨粗鬆症」になったり、血中カルシウムのバランスの崩れによる高血圧、動脈硬化などを招くこともあります。まとめると、カルシウム欠乏症として報告されているものは以下の通りです。
- 骨粗しょう症
- 骨密度の低下
- くる病(骨の発育期の小児でカルシウムが骨に沈着せず、軟らかい骨様組織が増加している状態)
- 高血圧、動脈硬化
また他の疾患が原因でカルシウムが不足して起こる病気もあります。
- 低カルシウム血症(ネフローゼ症候群、慢性腎不全、副甲状腺機能低下症、ビタミンD欠乏症、低マグネシウム血症、一部の悪性腫瘍などが原因)
今回は日本人が最も不足しているミネラル、カルシウムについて紹介しました。幼児期から青年期までの成長に欠かせないものですし、壮年期から老年期では骨の病気を起さないためにも欠かせないものです。
みなさんも日ごろの食事でカルシウムを意識して摂取していただき、病気の予防に繋げてもらいたいと思います。