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Vol.12

日本人の高血圧患者数は約4,300万人と予想されています。実に日本人の3人に1人が高血圧ということです。高血圧患者さんの数は、食生活の欧米化や人口の高齢化に伴い、今後も増加すると考えられています。
 あまり自覚症状がなく、放置していても大丈夫じゃないかと言う方もおられると思いますが、脳卒中や心筋梗塞など重大な疾患を引き起こす可能性がある怖い疾患です。
 しかし生活習慣の改善や、薬物療法によって血圧をコントロールできれば、重大な疾患に至るリスクは低くなります。
 そのためにはまず自分の血圧を把握すること、高血圧がどんな疾患かを知ることが重要です。


高血圧とは

私たちは、心臓から送り出された血液が全身に栄養や酸素を送り届けることで生命を維持できています。血圧とは、この血液が血管に加える圧力のことをいいます。 心臓は血液を送り出すときにぎゅっと収縮します。このときに血管にかかる圧力を収縮期血圧といい、このとき血圧は最高値を示します。
 逆に、全身をめぐった血液が心臓に戻るときには心臓が拡張しますが、このときの血圧を拡張期血圧といい、最も低くなります。

高血圧とは、血管に過度の圧力がかかっている状態を指します。高血圧が続くと血管に負担がかかるため、脳の血管が破裂して脳出血を起こすリスクが高くな ります。また、心臓はどんどん血流を送り出そうとして次第に大きくなります(心肥大)。心肥大が進むと、心臓の動きがにぶり、血液を全身に送り出す機能が 低下します。 このように、高血圧はさまざまな疾患を引き起こす恐れがありますので、定期的に血圧を測定し、コントロールすることが重要です。

高血圧の種類

高血圧には、他の疾患や薬剤の副作用が原因で起こる二次性高血圧と、原因のはっきりしない本態性高血圧があります。

1.本態性高血圧

日本人の高血圧の85~90%は、原因のはっきりしない本態性高血圧といわれています。もともと高血圧になりやすい体質や、塩分の摂り過ぎ、肥満、過度の飲酒、運動不足、ストレス、喫煙などが原因で発症すると考えられます。

2.二次性高血圧

一方、高血圧の10~15%は、何らかの原因がある二次性高血圧といわれています。これは、ホルモン分泌異常、腎臓疾患、薬剤の副作用などが原因で起こると考えられます。
 二次性高血圧は、通常の降圧治療では効果がないこともありますが、原因を取り除けば血圧は下がります。

高血圧の診断基準

高血圧とは、病院や健診施設などで測定した血圧値が、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上(140/90mmHg以上)の状態をいいます。
  自宅で測定する家庭血圧では、それより低い135mmHg以上または85mmHg(135/85mmHg以上)が高血圧とされます。

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドライン2014 2014 ライフサイエンス出版:15,2014より引用

降圧目標値

降圧目標値は、年齢や合併症によって違います。 家庭血圧の降圧目標値をみると、若年、中年、前期高齢者(75歳未満)では135/85mmHg未満です。一方、75歳以上の後期高齢者では、それより高 い145/85mmHg未満を目安としています。高齢になるとさまざまな臓器の機能が低下していることが多く、血圧低下が臓器の機能に悪影響を及ぼす可能 性もあるため、慎重に治療する必要があります。
  また、糖尿病、蛋白尿のある慢性腎臓病(CKD)を合併している患者さんの降圧目標値はより低く、125/75mmHg未満とされています。糖尿病や蛋白 尿のあるCKDを合併している高血圧患者さんは、心筋梗塞、脳卒中などを発症するリスクが高いため、より血圧を下げ、これらの疾患を予防するために厳格な 目標値が設定されています。

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドライン2014 2014  ライフサイエンス出版:31,2014より引用

白衣高血圧と仮面高血圧

○白衣高血圧

家庭では正常血圧であるのに対し、外来や病院などで測定すると高血圧になることです。白衣を見ると緊張して高血圧になる、という理由で「白衣高血圧」と名前が付いていますが、実際のところ医療環境に対して緊張して高血圧になっていることから、診察室高血圧とも言われます。

○仮面高血圧

白衣高血圧の逆で、家庭で測ると高血圧、外来や病院で測ると正常血圧という状態を「仮面高血圧」 と言います。この理由としては様々なことが言われていますが、例えば、病院に行く前は安静にしたり、通常喫煙時血圧は上がりますが、病院に行く時はタバコ を吸わなかったりするためであるという説があります。また、病院に行く場合は午前中が多く、ちょうど血圧が軽快している場合もあります。
 仮面高血圧は発見しにくいため放置されがちですが、日常的な高血圧により血管に負担がかかりやすくなるようです。 家庭のふだんの生活の中での血圧測定を始めることで、仮面高血圧を発見することができると言われています。血圧は夜間に上昇することが多いため、朝晩に測定することで発見しやすくなるからです。

高血圧がもたらす疾患

高血圧が続くと動脈が硬くもろくなる動脈硬化が起こり、やがて脳、心臓などでさまざまな病気を引き起こします。

1. 脳

脳では、脳血管が破裂する脳出血や、脳血管がつまる脳梗塞が起こります。
・脳出血
  硬化した脳の細動脈に圧力がかかって、血管が破裂して起こる。
・脳梗塞
 動脈硬化で内側が狭くなったところに、血栓(血液のかたまり)ができて血管がつまり、血液が流れなくなる。

2. 心臓

心臓では、心臓が血液をどんどん送り出そうと無理をして次第に大きくなり(心肥大)、それが進むと心不全が起こります。また、心臓を取り巻き酸素を供給す る冠動脈にも影響があります。動脈硬化などで冠動脈が狭くなる狭心症、完全に閉塞して心筋が壊死する心筋梗塞などがあります。
・狭心症
 心臓を取り巻く冠動脈が狭くなり、心臓を動かすための血流が不足する「心筋虚血」が起こります。突然、胸を締めつけられるような痛みや圧迫感を感じますが、この症状は数分、長くても15分程度でおさまります。
・心筋梗塞
 冠動脈が完全にふさがって血流が途絶えますので、その部分の心筋は壊死します。激しい胸の痛み、呼吸困難、冷や汗、吐き気などの症状があり、長時間続きます。

3. 腎臓

高血圧は、腎臓にも影響を及ぼします。腎臓は小さな動脈のかたまりのような臓器で、血液を濾過して尿を作ります。高血圧によって動脈硬化が進むと腎硬化 症、さらに進むと腎機能が著しく低下する腎不全になります。そうすると尿を作る働きが衰えて体内に老廃物がたまり、人工透析をしないと生命が維持できなく なります。

高血圧の治療

高血圧の治療には、非薬物療法と薬物療法があります。 非薬物療法とは、食事(特に減塩)、運動など生活習慣の改善による治療です。軽度の高血圧であれば、生活習慣の改善のみで、薬物療法を必要としないことも あります。薬物療法を受ける場合でも、お薬の効果ばかりに頼るのではなく、生活習慣の改善と並行して行うことが重要です。ここでは非薬物療法をご紹介したいと思います。

1. 生活療法

・ストレスを避ける
  ストレスがかかると心拍数が増えたり、血管が収縮したりすることで血圧が上昇します。前述した「白衣高血圧」も緊張してストレスがかかることで起こる現象 です。 ストレスがたまりやすい性格、行動があると血圧値が高くなることもわかっています。競争心や攻撃性が高い、いつもいらだってせかせかと行動する、完璧主義 であるなど、思い当たる点がある方は、ストレスがたまりやすいといわれています。肩の力を抜いて、気楽に行動することを心がけてみましょう。
・十分な睡眠時間を
 必要な睡眠時間は人によって違いますが、自分にとって最適な睡眠時間を確保できないと気づかないうちに疲労やストレスがたまり、血圧が上昇することがあります。忙しいときでも十分な睡眠時間を確保することを心がけ、疲れをとるようにしましょう。
・入浴する
  入浴すると血管が広がり、血行がよくなるため、血圧低下が期待できます。また、入浴は疲労回復やストレス解消にも効果的です。ぬるめのお湯(40℃くらい)にして、長湯を避け、冬は浴室や脱衣所を暖かくしましょう。

2. 食事療法

食塩をとりすぎると、血圧は上昇します。これは、とりすぎた塩分を薄めるために水分もとりすぎてしまい、その結果、血液量と脈拍数が増え、血管への圧力が強くなるからです。
 また、食塩に含まれているナトリウムは血管を収縮させたり、交感神経を刺激するので、このことからも血圧は上がります。 日本人は食塩の摂取量が比較的多く、1日の食塩摂取量は平均11~12g程度です。厚生労働省が定める日本人の食事摂取基準では7~8gにおさえましょうとなっています。
 ただし高血圧の人にはこれでも多すぎます6g未満におさえるように心がけ、食塩の使用をひかえた食生活を心掛けましょう。ただ、塩分をひかえて味気なく思うときは、香味(香辛料や薬味)、酸味(酢やレモン)、風味(だしやこげ)を使うなどひと工夫するのもいいでしょう。 また、インスタントラーメンや干もの、さつまあげ、ちくわといった加工食品にも、塩分が多く含まれているので、気をつけましょう。

3. 運動療法

○適度な運動は、血圧を下げる効果がある
  高血圧に対する生活習慣の修正として、運動も効果があります。特に先ほどの表にあったⅠ度の高血圧であれば、運動と食事だけで血圧を下げられることもあり ます。適度な運動は、心臓や肺の働きを向上させ、血液の循環を促進し、継続して行うことで次第に体の各部の機能が鍛えられてきます。すると血圧だけでな く、肥満、脂質異常症、糖尿病など生活習慣病全般に対しても良い影響を及ぼします。
○ウォーキング、水泳などの有酸素運動を
  運動には、有酸素運動(エアロビクス)と無酸素運動(アネロビクス)があります。有酸素運動は、十分に酸素を取り込みながら行う運動で、ウォーキングやサ イクリング、水泳などが該当します。一方、無酸素運動は、一瞬息を止めて力を振り絞る、懸垂や腕立て伏せ、重量挙げなどです。無酸素運動は、一時的に血圧 を上昇させるので高血圧の人には危険です。高血圧の人の運動は、有酸素運動を選択しましょう。有酸素運動は、2日に1回、できれば毎日、継続して30分以 上続けることが理想です。

血圧測定

血圧は1日のうちでも、時間帯や行動パターンによって変動します。また、 寒い時期は上昇するなど、気温の影響も受けます。年に一度の健康診断で正常血圧だったからといって安心するのではなく、できれば毎日、自宅でも血圧を測定してみましょう。
  また、一日一日の血圧をみて、「今日は上がった」「下がった」と気にしすぎるのはよくありません。1ヵ月、1年など一定期間の血圧の変化を観察しましょう。 家庭血圧は、以下の条件で測定することが日本高血圧学会により推奨されています。 自宅で測定した血圧値はすべて血圧手帳に記録し、医師にみてもらいましょう。

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドライン2014より引用

服薬治療

○薬物療法の注意点

 非薬物療法を行っても高血圧が続く場合は、薬物療法を行います。薬物療法の目的は、高血圧を改善して臓器障害や合併症を予防することです。 薬物療法を始めるタイミングは、年齢、糖尿病などの合併症、臓器障害の有無などを考慮に入れ、医師が総合的に判断します。もちろん、薬物療法を行いながら、引き続き非薬物療法を継続することが重要です。
  医師は年齢、高血圧の重症度、合併症の有無などを考慮し、あなたに合った降圧薬を選びます。医師が適切な降圧薬を選択できるよう、自覚症状や気になることがあれば、きちんと報告するようにしましょう。 そして医師・薬剤師の指示に従い、規則正しく服用しましょう。血圧が低下しても、勝手にお薬の量を減らしたり、お薬そのものをやめたりしないようにしてください。 服用を開始して血圧が低下すると、だるさなどを感じることがあります。また、降圧薬の副作用で、動悸、頭痛、むくみ、めまい、便秘などが起こることもあります。気になる症状があれば、医師に報告してください。

○お薬の種類

今回は高血圧についてご紹介しました。生活習慣の改善や、薬物療法によって血圧をコントロールできれば、重大な疾患に至るリスクは低くなります。
 日ごろから血圧を測るなど意識しながら、病気の予防、治療につなげてもらいたいと思います。