Vol.14
たばこには多くの有害物質が含まれており、様々な病気を引き起こす原因となります。 現在、WHO(世界保健機関)を中心に、たばこの規制を厳しくしようという動きが世界的に広がっています。そこには、最近の研究や疫学調査から、今までにも増してたばこと健康被害の関係が明確になってきたことがあげられます。
たばことは
「たばこ」は、ナス科の植物「タバコ」からできています。植物としてのタバコはナス科タバコ属に分類されています。
同じナス科の植物であるナスやトマト、ジャガイモなどと同様にアメリカ大陸を原産地とし、世界各地で栽培されており、葉タバコを栽培、乾燥させて「たばこ」は製造されます。
種類として日本で販売されているものは紙巻きたばこが多いですが、最近では加熱式たばこの需要も多くなっているようです。しかし、健康被害は大きく変わっていないのが現状です。
喫煙率
現在習慣的に喫煙している者の割合は、17.7%であり、男女別にみると男性 29.4%、女性7.2%となっています。この10年間でみると、いずれも有意に減少しているようです。 年齢階級別にみると30~40歳代男性では他の年代よりもその割合が高く、約4割が習慣的に喫煙しているようです。
主流煙と副流煙
たばこの煙には、たばこを吸う人が直接吸い込む「主流煙」と、火のついた先から立ちのぼる「副流煙」に分かれます。有害成分は低温の不完全燃焼時により多く発生するため、副流煙は主流煙よりも多量の有害物質を含むことが知られています。
受動喫煙
受動喫煙とは、先にあげた火のついた先から立ちのぼる「副流煙」と、喫煙者が吐き出した「呼出煙」の煙を喫煙者の周りにいる人が吸い込むことを言います。主流煙よりも有害物質が多いと言われています。副流煙には主流煙と同じく体に有害な成分が含まれていて、ニコチン、タール、一酸化炭素などの成分を同じように含んでいます。
たばこの有害物質
たばこには4,000種類の化学物質が含まれており、200種類以上の有害物質、43種類以上の発がん性物質が含まれています。そして特に大きな健康被害を及ぼす物質が3つあります。
1. ニコチン
ニコチン依存を引き起こす原因物質で、中枢神経系に作用し、少量では興奮作用、大量では鎮静作用を示します。喫煙により、肺から速やかに吸収され全身に広がり、間接的には血管収縮作用ももたらします。体内に吸収されたニコチンは代謝されてコチニンを生じ、発がん性が認められています。たばこを反復使用すると生じる依存性は、ニコチンの精神及び身体依存によるものです。
2. タール
フィルターに茶色く付着するいわゆるヤニのようなべっとりしたもので、粒子相の総称です。タールには発ガン物質として有名なベンツピレンをはじめ、アミン類など数十種類の発がん物質が含まれています。
3. 一酸化炭素
気相に含まれる有毒物質で、赤血球のヘモグロビン(Hb)と強力に結びついて(酸素の200~250倍)一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)を形成し、血液の酸素運搬機能を妨げ、組織の酸素欠乏を引き起こします。呼気中の一酸化炭素濃度(ppm)は、非喫煙者では1桁台ですが、喫煙者では数十ppmになります。
4. その他
そのほかにも、ペンキ除去剤に使われるアセトンや、アリの駆除剤に含まれているヒ素、車のバッテリーに使われているカドミウム、工業溶剤に使われるトルエンなど、体に大変有害な物質がタバコの煙に含まれています。
たばこの危険性
近年の疫学調査により、たばこは様々な疾患を引き起こすことが明らかになってきました。喫煙者はもちろんのこと、受動喫煙で影響を受ける健康被害も問題になっています。
1. がん
たばこ=肺がんというイメージがありますが、肺がんに限らず、喫煙はほとんどの部位のがんの原因になると言われています。
直接煙の影響を受ける咽頭、喉頭、肺をはじめ、食道、胃、肝臓、すい臓、膀胱でもたばこはがんのリスクが大きく上がることがわかっています。 また、吸わない人に比べてがんで死亡するリスクも高くなります。
2. COPD(慢性閉塞性肺疾患)
以前、肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれていたものもCOPDに含まれます。気管・気管支や肺胞が慢性の炎症を起こすことによって、気管・気管支がむくみ、肺胞が壊れ、肺での十分な酸素の取り込みが難しくなる病気です。
COPDの原因は、ほとんどがたばこです。それ以外の原因は、日本ではほとんど見られません。1日20本(1パック)を20年以上喫煙されている人はCOPDのリスクが上昇します。 また、喫煙者の配偶者の方が受動喫煙により、COPDを発症するケースもあります。
3. 虚血性心疾患
虚血性心疾患の発病のリスクが喫煙により高くなることも明らかになっています。たばこの煙に含まれるニコチンや一酸化炭素が、心臓の冠状動脈の動脈硬化を促進させ、虚血性心疾患を引き起こすといわれています。血管がボロボロになる、血液がドロドロになるという現象は、喫煙によっても大きく影響されます。
4. 脳血管障害(脳卒中)
虚血性心疾患と同様に、喫煙によって血管の壁が損傷を受け細胞の機能不全につながるだけでなく、血液の成分も血栓形成に傾くこと、酸素運搬能が低下すること、身体の酸素要求量が増加すること、短期的に血管抵抗が増して血圧が上昇することなどがあり、このような複数の要素が喫煙と循環器疾患に関連していると考えられます。
5. 乳幼児突然死症候群(SIDS)
何の予兆や既往歴もないまま乳幼児が死に至る原因のわからない病気で、窒息などの事故とは異なります。平成29年には77名の赤ちゃんがSIDSで亡くなっており、乳児期の死亡原因としては第4位となっています。
予防方法は確立していませんが、赤ちゃんの受動喫煙は危険要因で4倍も危険度を高めることが知られています。これは、家庭内の喫煙者なら誰にでも当てはまります。父親と母親が喫煙者である場合は、リスクが5.77倍になるといわれており、大きな危険因子となっています。
6. 低出生体重児
妊婦の方がたばこを吸うと、低出生体重児(2,500g未満の児)が生まれやすくなります。そしてこれはたばこの量と関係が深く、1日10本以上吸う人では特に注意が必要です。
たばこの煙の有害成分の中で、妊娠に悪影響を及ぼす主な成分は、一酸化炭素とニコチンです。これらの作用により、胎児は妊娠中、低酸素状態にさらされます。そのほか、たばこの煙に含まれる発がん物質も、胎盤を通して胎児に移行するといわれています。
7. その他
たばこを吸うと2型糖尿病にかかりやすいことが国内外の多くの研究によって明らかにされています。「交感神経を刺激して血糖を上昇させる」ことと「体内インスリンの働きを妨げる」という2つの作用に関係していると考えられています。
既に糖尿病にかかっている人においても悪影響を及ぼします。糖尿病の患者さんがたばこを吸い続けると、治療の妨げとなるほか、脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病性腎症などの合併症のリスクが高まることがわかっています。
たばこを吸う人(喫煙者)の死亡率は吸わない人(非喫煙者)より高く、国内で喫煙に関連する病気で亡くなった人は年間で12~13万人、世界では年間500万人以上と推定されています。更に、国内の調査では20歳よりも前に喫煙を始めると、男性は8年、女性は10年も短命になることが分かっています。喫煙は、一時の至福感と引き換えに、自分の寿命を削っているのです。
受動喫煙を防止するための取り組み
2018年7月、健康増進法の一部を改正する法律が成立し、望まない受動喫煙を防止するための取り組みは、マナーからルールへと変わります。
学校・病院・児童福祉施設等、行政機関(2019年7月1日より施行)の屋内は完全禁煙となり、喫煙室等の設備を設けることも出来ません。これに伴い、当薬局グループ敷地内(駐車場を含む)も全面禁煙となりました。
たばこの依存度チェック
こちらのTDSニコチン依存度テストは精神医学的な見地から、ニコチン依存症を診断することを目的として開発されたものです。 全10問の質問で構成され、「はい」と答えると1点、「いいえ」と答えると0点、10問の点数の総計で依存度を判定します。5点以上が「ニコチン依存症」と診断されます。
禁煙をはじめましょう
1. 禁煙を実行する
禁煙すると、さまざまな離脱症状(禁断症状)が出ることがあります。離脱症状の多くは、体の中からニコチンが抜け出すためにみられ、通常禁煙後3日以内にピークとなりますが、おおむね1週間、長くても2~3週間で消失します。 喫煙の代わりに他の行動を実行し、吸いたい気持ちをコントロールしましょう。ガムを噛む、歯を磨く、飲み物を飲む、軽い運動をする、趣味を満喫するなどの行動変容を行うと良いでしょう。
2. 禁煙補助薬
それでも禁煙が続かない方には、禁煙補助薬があります。ドラッグストアで購入できる薬もありますが、自分一人での禁煙が困難な場合は病院でサポートを受けて治療することもできます。一定の条件を満たせば、健康保険等を使って禁煙治療を受けることができます。
バレニクリンは 喫煙による満足感を得られにくくします。ニコチンパッチ、ニコチンガムを使うと禁煙の成功率が各々約1.7倍、1.4倍、バレニクリンを使うと約2.3倍高まります。
以下のページで禁煙外来を行っている病院を確認することができます。
3. 禁煙で得られる健康メリット
数日で :味覚、嗅覚が鋭敏に。
1~2ヶ月で :慢性気管支炎の症状(咳、痰、喘鳴)が改善。
1年で :軽度・中度のCOPD患者さんの肺機能が改善。
2~4年で :心臓病のリスクが吸い続けている人に比べてかなり低下。
10~15年で:喉頭がんのリスクが吸い続けている人に比べて60%も低下。
10~19年で:肺がんのリスクが吸い続けている人に比べて70%も低下。
20年で :口腔がんのリスクが吸わない人と同じに。
4. 禁煙で得られる金銭メリット
1日1箱500 円で計算すると、
2ヶ月で3万円 :靴が買えます。
1年で約18万2千円 :大型家電が買えます。
5年で約91万円 :豪華客船クルーズ旅行へ行けます。
10年で約182万円 :家をリフォームできます。
15年で約273万円 :新車が買えます。
30年で約547万円 :良き老後を暮らせます。
他にもたばこの臭い等で取り替えるカーテンや服の費用、病気になった際の医療費の削減(本人だけでなくご家族、さらには国の財源まで)になります。
今回はたばこの害についてご紹介しました。たばこにはたくさんのリスクがあることがご理解いただけたかと思います。
法律も変わり、ますます喫煙できる場所は限られてきます。 喫煙者でこの健康豆知識を見られた方、家族に喫煙者のいる方は是非禁煙を進めてほしいと思います。